毎日自己満足

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小説『皇国の守護者』

皇国の守護者』は佐藤大輔架空戦記だ。
架空戦記と一言で言っても様々な作品があるが、この『皇国の守護者』は他の作品に比べてある意味挑戦的な作品だと思う。

高度な軍事的知識、描写を以てファンタジー的な要素が加わった限りなく現実に近い架空世界を描いているという点だ。

あまり冊数を読んでいないジャンルなので間違いが有ったら申し訳ないが架空戦記というのは実際に起きた第二次世界大戦などに現実には存在しなかった有能な指揮官だったり、未来から来た結末を知っている人間が参加し戦況を変えていく、と言うのがメジャーだと思っている。

その点においてこの作品は独特だと思った。

舞台は日本をモデルにした『皇国』
そしてその『皇国』を北から侵略せんと攻め込むロシアをモデルにした『帝国』

武器の火力は日露戦争時くらいだと思う。
だが、ここで現実とは大きく異なる要素がある。それはこの世界に特有の生き物の存在だ。

主人公の新城直衛の相棒であり、皇国の大きな戦力となっている剣牙虎(サーベルタイガー)や人語を解し空を自在に飛ぶ龍、帝国が使役するワイバーンなどがそれにあたる。

これらが荒唐無稽な存在としてでは無く、かなり現実味を帯びた運用をされているのがこの作品の良いところだ。
近年ファンタジー世界と現実の戦力が共闘、交戦する作品がちらほら目につくが大体どちらかの圧倒的な蹂躙で単に片方の陣営を持ち上げる為の材料になってしまっているモノが多い。
それらに比べるとこの作品の架空要素は架空で有りながら現実味と説得力を持った素晴らしいバランスを保っている。

個人的に思ったのは、剣牙虎の運用は戦車のそれにあたるのかな、と言う事。
随伴する歩兵で戦車の小回りの無さを埋めたり、火力で相手を崩してから突撃したりする戦法からアイディアを得ているような気がした。


世界観の説明ばかりしてしまったが、登場人物も素晴らしい。
主人公の新城直衛は低身長で凶相で、残忍で冷酷であるが実は臆病なところがある。とこう書くと良いところが無いように見えるが、臆病を押し殺し敵からも味方からも恐れられる存在であろうと努力する姿や、なるべく兵隊の無駄死にを出さないようにする姿、敵の裏をかく作戦を考え部下に実行させる姿などがとても魅力的。
単騎で敵に突っ込んで暴れまわる武将のようなキャラクターも好きなのだが(若い主人公をひたすら持ち上げる為の無双は嫌い)、こういうキャラクターも好きになった。

ヒロインの部下と敵の将軍も魅力的なキャラクターだった。この人の書く女性は全体的に魅力的だと思う。
忠実で信頼できる部下と魅力的な敵の女将軍と言うタイプの異なる二人をそれぞれ魅力的に描写している。




長々書いたが最後に唯一欠点を上げるとすれば完結していない事。一段落はついているが一読者としては早く最終巻まで読みたいと思う。

あと余談だが子供の頃に読んだ『テメレア戦記』と言うファンタジー小説を思い出した。あれも竜を使役して実在の国家が戦争すると言う作品で好きだったのを覚えている。