毎日自己満足

読んだ本や見た映画等の感想、日々個人的に考えた事なんかを書いていきます

小説『ボラード病』

この小説、本屋でたまたま見掛けて吸いとられるように手にとって購入したので事前にどんな内容かは全く把握していませんでした。

 

ただ、裏表紙のあらすじを読んで、ディストピアと書かれていたのでディストピアなんだろうなぁと。あとはコズミックホラーな話かな、と最初は勘違いた。

 

ディストピア、という言葉を聞くと人間がIDで管理、監視され、トレイにのった栄養食と錠剤で生き、密告や拷問、洗脳に満ち溢れた世界というイメージが多分大半の人間にはあると思う。

 

でもこの『ボラード病』はひと味違うディストピアを読者に体験させる。あくまでも現実の延長線上としてのディストピアだ。

作品はとある女性の回想の形式で書かれていて、時折現在の時間軸に戻る。

描かれている風景自体は平穏なものなのに、どうしてか不穏なものを感じさせる。読み進めてもその不穏の正体が明らかにならない。だからその正体を知りたくて、さらに読み進めることになる。

 

本には一気に読んだ方がいいものと、小分けに読んだ方がいいものがあると思うが、これは明らかに前者。というか一旦引き込まれるともう止まらない。

人間は未知を恐怖し、その正体を見極めて安心しようとする。そういう人間の心理が働いて活字を追うスピードが上がるのかもしれない。

 

同調圧力全体主義と一言にしてしまえば安っぽくなる嫌な雰囲気や何かに心酔し、すがる人間の醜悪な感じがかなりよく描かれていて素晴らしい。

 

人間は信じたいことを信じ、それを真実だと思い込む能力を持っている。そして、それが過ちであると知っていても思い込むことをやめない。世界とは主観的なものなのだと読んでいる人間に刻み込んでくるような作品でした。

 

背筋をぞわぞわさせながら、本を読むのが好きな人におすすめです。