毎日自己満足

読んだ本や見た映画等の感想、日々個人的に考えた事なんかを書いていきます

小説『黒い季節』

読者の方は「伝奇」と言う小説ジャンルを知っているだろうか。
詳しい説明は省略するが、個人的な解釈として「伝奇」は
・事実と異なる歴史体系に基づいている世界観を舞台にしている
もしくは
・現実社会の影に明らかにされていない面が存在していて、それが時に史実や事実とリンクした世界観を舞台にしている

自分はこれらが「伝奇」の条件なんじゃ無いかな(違ったら申し訳ない)と思っている。

今回紹介(レビュー?)したいのは冲方丁の「黒い季節」
冲方丁と言えばSFの「マルドゥック・スクランブル」や時代劇の「光圀伝」で有名だが、この「黒い季節」はそんな冲方丁がまだ若い頃(確か大学生だった頃)に書いた伝奇だ。

シナリオは様々な人間の視点が入り交じって少し難解


あるヤクザが正体不明の少年を保護するが、その少年は記憶を失っていた。何やら曰く付きっぽいがヤクザさんは思いのほか優しくて少年を保護する。
一方、とある少年が、ある「絵」を探して夜の街を徘徊している時にならず者に絡まれるが、滅法強い(その上不思議な力を使える)女性に助けられる(こういう強い女性の書き方が上手い人の本は面白い気がする)
この二組と敵役(?)の野心に溢れる若いヤクザとやはり不思議な力を使える女性。

主人公達二組はやがて交差し、また少年が探していた「絵」も物語の重要な役割を担って綺麗に終焉する。


自分は中学高校時代に小説を書こうとした事が有った。でも当時「空の境界」や「黒い季節」と言った伝奇小説にはまっていたせいでどうしても「劣化伝奇モノ」にしかならないと言うことがあった。
重厚な世界観と魅力的な複数のキャラクター、最低でもこの二つを備えなければならない伝奇小説はとても書くのが難しいのだと思う。

だからこそ、この作品を大学生の頃に完成させた冲方丁は凄まじい小説家だと思う。