毎日自己満足

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漫画『シグルイ』

日本特有の戦士階級である「侍」「武士」というものは、その特異性から様々な作品のテーマになることが多い。

義理人情、忠誠心、明確な形で現代まで残る卓越した剣技の一端(西洋では殆ど散逸している)

これらが現代の日本人の心も熱くするのはやはり道徳観念の根底に武士道手的な考え方が残っているからだろう。他国では厳格な宗教が担っていた役割を武士道的な考え方が受け持っていたという説もある。


だが、武士の世はそんな綺麗事、美しい事ばかりでは無いと描いたのがこの漫画『シグルイ』だ。

原作は小説『駿河城御前試合』。十一の御前試合を描いた短編集で、『シグルイ』の原作はその内の『無明逆流れ』

タイトルは「葉隠」という武士のあるべき姿を書いた本の一節、「武士道は死狂いなり」からとったもの。



舞台は太平の江戸時代。駿府城で将軍の親族である徳川忠長の前で行われた御前試合で、2人の剣士が向かい合うところから物語は始まる。

この2人は普通の剣士では無く一人は隻腕、一人は足が不自由な上に盲目。

この特異な2人の剣士、藤木源之助と伊良子清玄の間には並々ならない因縁があった。彼等は元々同じ流派【虎眼流】の兄弟弟子だったのだ。

物語は彼らが出会い、そしていかにして敵対する事になったのかを追っていく形で展開する。

愛憎が入り交じった人物の心情描写も剣客同士の立ち会いも、すべてが一級。

絵も美麗としか言えない、内臓すら鮮やか。


とにかく全ての巻に見所があり、どこか一カ所をピックアップするのは難しい。ただ一貫して言えるのは凄まじい武士の世界を描いたものだと言うことだ。

・常軌を逸する鍛錬
・目上の者に言われれば何があってもそれを成す
・体面や誇りを守るためなら他人の命を奪うことを躊躇わず、己の命も捨てる
・相手を斬るために途轍もない殺意を漲らせる


これらの凄まじい世界を高い画力で余すところなく描いた作品だと言える。

侍や武士をテーマにしたものは多いがある意味で美化されたものや少年漫画的に描写されたものが多い中、独特の気配を放つ名作なので是非読んで欲しい。